知らない駅
夜、知らない駅でキーボードを背負っていた。きっと部活かなんかの帰りだったのだろう。
駅の中、少し離れたところにかつて憧れのような小さな恋心のようなものを抱いた人が見えた。その人もギターを背負っていて、きっと学校の帰りで、側には友達と思われる人が2人いた。
私はなんとなく声をかけづらくて、でも彼に気付いて欲しくて、窓から満月をのぞいているフリをしてそこに立っていた。
「久しぶり」
「何してたの?」
「月を撮りたくて」
「でもカメラを持っていないの」
「まだバンド続けてたんだね」
「あなたも」
「そういえば、就職が決まったよ」
「またこっちに戻ってくるの」
「そっか、おめでとう」
午後6時前、ご飯を作るから手伝って、と母の声で目を開けた。長い昼寝をしてしまった。
剥き出しの蛍光灯に虫が飛んでいるような、掲示板のチラシは剥がれかかっているような、あまりきれいな駅ではなかったけれども、少し開いた待合室の窓からは満月が見えて、
きれいな夢だった。